地方でも活躍する中小企業診断士 愛媛と関西の間で 「実績ゼロ」から始める地方支援の現在地
大阪府中小企業診断士協会所属の大澤真介と申します。
2024年5月に登録し、ちょうど診断士活動を始めて丸2年が経過しました。普段は大阪と京都を拠点に活動していますが、出身は愛媛県今治市です。今回の特集テーマである「地方でも活躍する」という言葉に対して、正直に言うと、まだ胸を張れるほどの実績はありません。愛媛で有償案件を受注したことがないのです。それでも執筆に手を挙げたのは、「これから地方で実績をつくっていく」過程の記録こそ、同世代の診断士の参考になるのではと考えたからです。
諸先輩方の成功談ではなく、走り出したばかりの現在地をお伝えします。
愛媛との縁、2拠点を考えた経緯
私は愛媛県今治市の出身で、高校卒業まで18年間を地元で過ごしました。大学進学を機に地元を離れ、その後はリユース業界で20年、店長・営業部長・経営企画室長・経理と経験を重ねてきました。その当時勤めていた企業は中四国・関西で展開し、年中無休で営業時間は16時間でした。現場優先のため帰省できる機会は限られ、地元との接点は多くても年1回でした。しかも皆さんが帰省する時期からは外れた平日の数日間でした。当時、幼かったおい・めいには「放浪している幻の叔父さん」扱いをされていました。
転機は、40代後半という年齢と、診断士として活動を始めたことが重なったタイミングでした。協会内外の研究会、イベントなどで、全国各地に根を張って活動する診断士の先輩方の話を聞く機会が増え、「自分のルーツである四国・愛媛・今治に、診断士として何か返せないか」と考えるようになりました。完全なUターンではなく、関西の活動を維持しながら愛媛との行き来を増やす、いわゆる2拠点活動を現実的な選択肢として描き始めました。
「実績ゼロ」から動き出す現在地
そうは言っても愛媛は遠いです。距離があり、コストもかかります。何より高校卒業から30年、地縁・人脈の蓄積がない状態でした。「四国で活動したい」「愛媛と今治に貢献したい」とは思っても何から手をつければ良いのか分からない状態でした。
そんな中で、私はこの2年間、大きく2つの取り組みに参加してきました。
1つ目は、2024年10月から2025年1月にかけて参加した四国経済産業局が主催する「地域企業協働プログラム」です。四国の地域企業と全国の外部人材をマッチングし、チームを組んで約2ヵ月間にわたり企業の課題に伴走するという内容でした。エントリー人数は46名、8チーム編成です。
私が参加したチームがマッチングしたのは、香川県のWeb制作企業と同じく香川県の公益法人の2社でした。大阪・九州・香川と多拠点で活動する企業、地域の中小企業支援を担う公益法人と業態は異なりますが、いずれも地域に根ざす中小規模の組織です。現在関西を拠点とする自分にとって、中小企業診断士として初めて「四国の企業」と直接関わる経験になりました。
愛媛そのものではありませんでしたが、香川県は私にとって全く新しい土地ではありませんでした。前職時代に坂出・高松周辺に数年間住んでいたエリアです。当時通い慣れた道、聞き慣れた方言、そして見慣れた瀬戸内の風景、それを今度は診断士という立場で改めて訪れる感覚は、全く未知の土地に支援に入るのとはまた違うものでした。
「地縁を生かす」というほど大げさなものではありません。それでも、薄れていた接点が再び動き出す感覚があり、こうした公募型プログラムは、地縁ゼロの土地への入り口としてだけでなく、「過去に縁のあった土地との再接続」の手段としても機能するのだと身を持って知った経験でした。
もっとも、実際のプロジェクト期間中の打ち合わせは週1回のオンラインMTGが中心で、現地に頻繁に通ったわけではありません。それでも、土地勘がある分、企業から語られる現場の話が頭の中でリアルに像を結ぶ、そんな2ヵ月間でした。
地元・愛媛で踏み出した最初の一歩
2024年度の経験を踏まえて、2025年度はもう一歩、地元に踏み込むことにしました。同じ企業が運営する松山市主催の事業「だんだんイノベーションラボ」への参加です。
このプログラムは、松山市内の中小企業と外部人材が協働で、各社のプロジェクトを前に進めるという建付けになっていました。今年度の参加企業は9社で、私はそこに外部人材としてエントリーしました。
10月のオンラインでのチェックイン・意見交換会から始まり、11月には松山市内でのフィールドワークが行われました。1泊2日の日程で実際に企業のオフィスを訪問し、経営者の方々と対面で対話する場をいただきました。その後、12月のマッチングを経て、1月から3月にかけて共創フェーズに入り、3月には事業成果報告会で取り組みを発信して締めくくるという長期の伴走型プログラムでした。
私のチームがマッチングしたのは、松山市の企業でした。同社が主宰するビジネス勉強会を地域版として全国に展開していく構想で、外部人材5人で言語化していくプロジェクトでした。事業戦略、営業・マーケティング、デザイン、ファシリテーション、そして私は中小企業支援・IT担当として、それぞれの専門性を持ち寄りました。
3ヵ月の共創では、「焦点を絞る → 言葉にする → 裏付けを取る」というプロセスでした。多岐にわたる事業活動の中から伝えるべき骨格を絞り、キャッチコピーを全員で議論し、最終的に会員アンケートで主観を客観的な数値で裏付ける、そんな試行錯誤を経て、18ページにわたる紹介資料が形になりました。
2026年3月11日の成果報告会では、チームを代表して社長とともに発表を担当しました。社長がその場で語った「ここからが本当のビジネスとしてのスタート」という言葉が、強く印象に残っています。3ヵ月でつくった「言語化された価値」を、ここからどうビジネスとして動かしていくか、プロジェクトの終わりが実は次の関わりの始まりでもある、四国全体に関わった前年とは違う街の中に立ち会う支援のあり方を、自分の中に置けた3ヵ月でした。
これらはいずれも、地縁がゼロの状態から始めた「足がかりづくり」です。いきなり有償案件を取りに行くのではなく、公的機関や自治体が主催するプロジェクトに運営事業者を介して地域の中に入り、関係性をつくる期間です。私自身、案件を狙う前に、まずは「入り口を増やすこと」に時間をかけている段階です。
同世代の診断士へ伝えたいこと
ここまで読んでいただいて分かるとおり、私の現在地は「成果」ではなく「準備」の段階です。それでも、同世代でこれから地方を考える方に、2年動いてみて思うことを3つだけ共有させてください。
1つ目は、実績がないことを引け目に感じすぎないことです。ベテランの諸先輩方の完成された支援とは違う自分なりの距離感・スタイルを持って同世代の経営者と並走することで、別の価値が生まれると考えています。
2つ目は、公募・支援機関のプログラムを足がかりとして活用することです。先述の2つはいずれも、経済産業局や自治体が関わるプログラムでした。地縁がゼロでも、運営機関を介して地域に入る道は開かれています。
3つ目は、「地方で活躍する」と「地方に住む」を分けて考えることです。完全Uターンが難しくても、関わり方の選択肢はあります。2拠点という形は、関西で築いていくキャリア資本を捨てずに地元へ関わる現実解だと私は考えています。
2拠点で描く5年後
今後5年で目指しているのは、関西と愛媛で「軸足7:3」程度の2拠点活動を成立させることです。大阪・京都での活動を主軸に置きつつ、愛媛では年に数件の有償案件と地元の若手経営者・支援機関との継続的な関係を持っていきたいです。サービス業・小売業のDX推進や生成AI活用の現場導入を、自分の役回りとして地元でも定着させたいと考えています。
愛媛は、瀬戸内のものづくり、観光、一次産業、商業など診断士の支援領域が広く存在する土地です。また、他府県同様に経営者の高齢化による後継者不在、人員不足やDX化の遅れなどの経営課題に直面している企業も多く存在します。
1人でできることは限られていますが、「形を残しながら、隣に居続ける」という自分の信条に沿って、息の長い関わりをつくっていきたいと思っています。
5年後、また同じテーマで、今度は「実績の話」として書ける日が来ることを目標に、まずは目の前の足がかりを積み重ねていきます。

- 登録番号
大澤 真介
合同会社オンザウェイ代表社員。愛媛県今治市出身、大阪・京都を拠点に活動。「IT と経営の二刀流」で中小企業のAI 導入、DX推進を支援。資金繰り管理SaaS 「GUULY」運営。
