地方でも活躍する中小企業診断士 鳥取と大阪、程よい距離で支援中

1. 近づく。けれど、近づきすぎない

診断士資格を取得後、私は比較的早い段階で独立しました。大阪で活動しながら、地元の鳥取でも中小企業支援に関わってきました。

行き来する中で感じたのは、地方支援には都市部とは違う「距離感」があることです。「地域を知る」、「人とつながる」、これは欠かせません。けれど、入り込みすぎるとかえって経営者が本音を話しにくくなることもあります。

「近づく。けれど、近づきすぎない」、鳥取での活動を通じて感じたその距離感について書いてみます。

2. 地元への入り口は地元に帰る前につくれ

鳥取で診断士活動を始める際、私にとって大きかったのは、大阪で出会った鳥取県出身の診断士仲間でした。

1人は診断士受験校で出会った方、もう1人は実務補習で別の班だった方を、知人経由で紹介してもらったことがきっかけでした。
この2人との付き合いは、今振り返っても大きかったと思います。直接の利害関係者ではありません。競合関係でもありません。だから、気兼ねなくランチに誘え、世間話もでき、時には愚痴も言えます。

同じ診断士という立場で話せる相手がいることは、自分の進んでいる方向を確認する機会にもなりました。

将来、地元や地方で活動したい方には、地元に戻ってから人脈をつくるのではなく、今いる場所で同郷の知り合いをつくっておくことをお勧めしたいです。仕事を紹介してもらうためだけではありません。地元で活動する感覚を持ち続けるためです。

3. 顔を売っても相談されるとは限らない

「地方で活動するなら、異業種交流会や地元経営者の集まりに参加すべきだ」、そういう考え方もあります。交流会には、地域の経営者同士が知り合い、情報交換する場としての大切な役割があります。

一方で、私は参加する場面と距離を置く場面を分けて考えるようにしてきました。地方では、交流会で出会った経営者を、後に専門家として支援する可能性があるからです。

経営者の立場に立てばどうでしょう。顔を知っている人や地域の集まりで同席する人に、自社の資金繰り、家族、従業員、取引先との悩みを洗いざらい話すことに抵抗がある方もいるはずです。

私の場合、異業種交流会で出会った経営者から、制度活用や補助金に関する軽い相談を受けることはありました。ただ、資金繰りや組織、人間関係に踏み込む相談に発展することは多くありませんでした。

以前の私は、初回面談で「○○出身です」、「○○高校の卒業です」と話すことがありました。「以前、○○の会合で社長のお話をお聞きしました」と伝えることもありました。その方が、距離が縮まると思っていたからです。

でも、必ずしもそうとは限りません。経営者は「この診断士には共通の知り合いがいそうだ」と感じるかもしれません。また、「自社の悩みが誰かに伝わらないか」と不安になる可能性もあります。もちろん、守秘義務は守ります。ただ、それを言葉で伝えれば、不安が全て消えるわけではありません。最近は、出身地や学校の話は、聞かれない限り自分からはあまり話さないようにしています。

印象に残っている出来事があります。ある支援機関から、ある企業に対して「この診断士に支援してもらってはどうか」と私を紹介していただいたことがありました。その経営者とは、別の支援先を通じて一度だけ面識がありました。すると、その経営者は「面識があるので、今回は別の専門家の方が相談しやすい」と答えたそうです。

その話を聞いたとき、私は残念というより、「なるほど、そういうこともあるのだな」と感じました。考えてみれば、私自身もその会社の状況を洗いざらい聞くことに、どこか気後れがありました。

地方では、顔を知っていることが、必ずしも相談のしやすさにつながるわけではありません。顔を売ることと、専門家として相談されることは違います。必要なのは、人脈の量ではなく、距離の取り方なのだと思います。

4. 台帳を開くと地域が見える

では、近づきすぎなければよいのか、そう単純でもありません。地域を知らなければ、見えないものがあります。

支援先の顧客台帳、売掛金、買掛金、取引先一覧を見ていると、知っている会社名がいくつも出てくることがあります。中には顧客企業であったり、個人的に知っている会社であることもあります。その会社の内情や意思決定の流れ、キーマン、働く人の顔が浮かぶこともあります。

そうなると、支援している会社を単独の一社としてだけ見ることができなくなります。「この会社の判断が、取引先や仕入先、そこで働く人たちの生活にも影響している」と感じる瞬間でもあります。

私が地方企業を支援する際にまず考えるのは、厳しい環境の中でも、事業を継続し、地域の雇用や取引を守る方向を一緒に考えることです。地方では一社一社の存在感が大きいです。その意思決定が地域の中で連鎖していきます。

経営者から「新商品を開発したい」「連携先はないだろうか」と相談を受けることもあります。守秘義務がありますので、具体的な話を安易につなぐことはできません。ただ、地域の事業者や商流をある程度知っているからこそ、「その方向性は良いと思います」「まずは小さく試してみてはどうですか」と現実感を持って背中を押すことはできます。

5. 車は移動手段、時々オフィス

地方支援で避けて通れないのが移動です。鳥取では車移動が前提になります。片道1時間なら、まだ近い方で片道2時間の運転も日常的にあります。

大阪であれば、駅や喫茶店で時間を調整できます。鳥取では車が移動手段であり、時には仕事場にもなります。雨の日もありますし、山陰地方ですので雪の日もあります。天候によっては、都市部以上に移動計画に気を遣います。

一方で、助かることもあります。訪問先企業には駐車場があることが多いです。大阪のように、現地に着いてからコインパーキングを探してぐるぐる回ることは少なめです。これは地味にありがたいです。

私が車移動の時間で意識しているのは、前回訪問時のメモを音声読み上げで聞き直すことです。次の訪問先に向かう車内で、その会社の前回メモを聞くと、文字で読み返すだけでは思い出しにくい会話の流れや、経営者の話の温度感まで戻ってくることがあります。

その状態で経営者に会うと、「この前お聞きした息子さんの部活の試合、その後どうでしたか」といった会話が自然にできます。前回話したことを覚えている、それも信頼につながります。地方支援では、移動も仕事の一部です。移動時間をどう使うかで、訪問時の支援品質も変わります。

6. 地域に入る。でも、詰めすぎない

地方で診断士活動をする上で大切なのは、地域に入り込むことだけではありません。入り込みすぎず、しかし地域を知らないわけでもない、経営者が安心して話せる距離に立つことだと思います。

将来、地元や地方で活動したい方には、まず今いる場所で同郷の知り合いをつくることをお勧めします。そして、地元に入ったとき顔を売ることを急がず、紹介者の信用を大切にし、専門家として相談される距離感を意識することが大切です。

地方では、1社の経営判断が地域の取引関係や雇用に連鎖します。だからこそ、支援者には地域を知る姿勢が求められます。一方で、経営者が本音を話せるように、近づきすぎない配慮も必要です。

「地域に入る。けれど、入り込みすぎない」、その距離感を磨くことが、地方で長く支援を続けるための土台になるのではないかと思います。

北村 真吾
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北村 真吾

鳥取県出身。大阪芸大卒。売れないミュージシャン、飲食店フリーター、広告代理店の営業マンなどを経て独立。大阪と鳥取の2拠点で売り上げ拡大・経営改善に従事。