地方でも活躍する中小企業診断士 人と人をつなぐ診断士 ―地方と都市を結び、地域企業の未来を開く支援の形―
三重県名張市に居住している私は、地域の小学校、消防団活動やイベント行事運営、商工会議所青年部を通じて多くの地元事業者と関わってきました。地方の中小企業支援に携わるようになったきっかけは、消防団の友人が経営する事業について経営助言を行ったことでした。この支援経験が私にとって地方の中小企業支援の原点となりました。
本稿では、三重県名張市を中心とした地方の経営者支援の現場で感じた都市部にはない特徴や課題を紹介しつつ、地方で活躍する中小企業診断士の在り方について紹介します。
1. 地方支援の原点:消防団の仲間から始まった経営支援
私が地方の中小企業支援に本格的に関わるようになったのは、地域の消防団活動の仲間であった経営者からの相談でした。その友人は総合工務店を営んでおり、売り上げの減少と数年続く赤字に悩んでいました。
相談を受けた私が最初に行ったのは、特別な戦略ではなく、案件ごとの粗利率の可視化です。多くの小規模工務店では、案件ごとの利益管理が曖昧で売り上げ中心の管理になっているという課題があります。そこで私は「工事案件ごとの粗利率を算出し、利益の出ている案件と出ていない案件を整理する」「受注判断と価格設定の基準を明確化する」という基本的な管理体制を提案しました。
その結果、数年続いていた赤字は大きく改善し、このまま推移すれば営業利益が確実、という状態になりました。その後、新型コロナウイルスの影響で売り上げが下がってしまいましたが、営業損失は最小限に抑えることができました。この体験から私は、「地方には気軽に経営を相談できる専門家が身近にいない企業が多い」という現実を強く認識しました。
2. 地方企業が抱える構造的な課題:「相談できる人がいない」という問題
地方の小規模事業者と話をする中で私が強く感じたのは、経営相談の文化そのものが十分に根付いていないという点でした。もちろん、商工会議所・商工会や金融機関などの支援機関は存在します。相談相手について私が聞いたところ、「経営者仲間・友人・商工会議所・商工会の経営指導員・金融機関」といったケースが多く、中小企業診断士という資格に対しても、「補助金を取ってくれる人」という認識しか持たれていないことがよくありました。
実際には診断士は、経営課題の整理、事業戦略の立案、業務改善、IT導入、組織改革など幅広い支援が可能です。しかし、その価値が地方企業に十分伝わっていないと感じました。私が経営者と対話を重ねる中で、「第三者視点から課題を整理」「強みと弱みを明確化」「解決策をともに考える」という支援を行うと、経営者から「診断士はこういうことをしてくれるのか」という理解が徐々に広がっていきました。
3. 地域支援を広げる鍵:「地域のハブ」とのつながり
地方で支援を広げるためには、もう1つ重要な要素があります。それは地域のハブとなる中心人物との関係です。地方には、地域の活動を牽引するキーパーソンが存在します。例えば、地域活性化の一般社団法人の代表、地元の名士、青年団体の役員といった人々です。
こうした人物は、地域企業の状況を把握しており、経営者との間に強い信頼関係があるため、困り事が自然と集まるという特徴を持ちます。私たち診断士がこうした中心人物とつながり、介在することで、困っている事業者と自然につながりやすくなり、支援が連鎖的に広がるという構造が生まれます。地方支援では、単なる営業活動よりも「信頼関係と接触回数」こそが重要だと、私は考えています。
4. 診断士1人ではできない支援:チーム支援の必要性
地方支援を進める中で、もう1つの課題も見えてきました。それは「診断士1人では対応できる範囲に限界がある」ということです。例えば企業支援には、営業、IT、財務、人事、マーケティング、DXなど多様な専門領域が必要になります。
地方で活躍する診断士が増えることはもちろん重要ですが、現場ではマンパワー・知識・経験に限界があり、1人の診断士がすべてを抱え込む支援には無理があります。さらに地方では、専門性の高い診断士の人数自体が少ないという問題があります。そのため、私は都市部の支援機関や診断士との「チーム支援」という形をとるようになりました。
5. 実践事例①:重要文化財を活用した宿泊事業 「kyucho hotel」
1つ目の事例は、地域の築170年の登録有形文化財を活用した宿泊事業の立ち上げです(株式会社kyucho hotel 代表取締役:北森さま)。このプロジェクトの立ち上げにあたって「なぜ民泊を行うのか」「誰に来てもらうのか」「どのような収益構造になるのか」といった点を整理して欲しいという依頼内容でした。
そこで私は大阪の診断士(二階堂氏、岩朝氏)とチームを組み、支援を開始しました。主な支援内容として、「民泊の目的とターゲット顧客の明確化」「事業コンセプトの整理」「事業化に必要な条件整理などの課題ブラッシュアップ」「宿泊単価・稼働率・費用構造の設計などの収支シミュレーション作成」を行いました。これにより事業の実現可能性が明確になり、「kyucho hotel」は2026年3月に無事オープンとなりました。
https://www.instagram.com/kyucho_hotel/?hl=ja
6. 実践事例②:工務店のDX支援「イエノキ」
もう1つの事例は、工務店の業務効率化支援です(支援先:イエノキ 代表:野山さま)。個人事業主として工務店を営んでいましたが、見積書作成や事務処理、書類作成などに多くの時間を取られており、結果として利益を生む本業に使える時間が減っているという問題がありました。
ここでも私は大阪の中小企業診断士(土橋氏)とチームを組み、業務フローの整理からITツール導入、そして土橋氏主導でアプリ開発による自動化を支援しました。最終的に事務作業を自動化するアプリを開発し、書類作成の時間を削減、作業効率を大幅に向上させ、本業への集中を実現しました。このような専門的なIT支援は私1人では難しく、まさに専門家チームによる支援の成果と言えます。
7. 地方と都市をつなぐ:地域で活動する診断士
今回の支援を通じて私が実感したのは、都市部と地方との間にある情報格差の存在です。都市部では新しいIT技術やDX、生成AI、新しいビジネスモデルなどの情報が比較的早く広がります。一方で地方では、情報が届くまでに時間がかかり、最新技術を導入する機会自体が少ないという状況が残っています。
今後は、地域内で完結する支援だけでなく、都市部の成功事例や新しい技術、最先端の経営知識を地方へ届ける役割が診断士に求められます。ただし、都市部の専門家をそのまま地方に紹介しても、経営者の方からは心理的ハードルが高く、受け入れられにくい場合があります。
ここで力を発揮するのが、地域で活動する診断士の存在です。地域の事情を理解し、経営者との間に信頼関係を持つ私たちが、地域の課題を都市部の専門家に翻訳して伝え、逆に専門家の知識を地域企業へ分かりやすく伝える「橋渡し役」となることで、初めて支援が成立するのです。
8. 地方で活躍する診断士の役割:おわりに
一連の地方支援活動を通して見えてきた結論は、地方で活躍する診断士とは「人と人をつなぐ存在」にほかならないということです。地方企業には、技術や情報、人材が不足しているわけではなく、それらが「つながっていないだけ」なのです。
私たちが、地域のキーパーソン、困っている経営者、そして都市部の専門家をつなぐ結節点となることで、地方企業の可能性は大きく広がります。これからも、地域に根差しつつ、広く外部のリソースを結び付ける「人と人をつなぐ診断士」として、地域の課題解決と未来づくりに尽力していきたいと考えています。

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数本 優
エスモット代表。本業の経営顧問、研修講師の経験を生かし、小学校・中学校・高校でのキャリア教育、地域イベントの監査役や経理、自主セミナーを通じて地域発展を志している。
