中小企業に関わる2026年度の法令改正 労働関係法令の改正と中小企業支援
はじめに
コロナ禍以降の働き方の多様化や、女性や高齢者の就業拡大などを背景に、昨年、約40年ぶりとなる労働基準法の抜本的な改正が検討され、大きな注目を集めました。執筆時点では、労働基準法の改正は見送られることとなりましたが、施行が決定した他の労働関係法令の改正もあります。
ここでは、2026年以降に施行される労働関係法令の改正のポイントと、見直しが検討されている労働時間法制についてご紹介します。本内容を、今後の企業支援の参考にしていただければ幸いです。
1.労働安全衛生法の改正
(1)高年齢労働者の労働安全衛生対策の強化(2026年4月施行)
日本の労働人口のうち、高年齢労働者が占める割合は年々増加しています。【図1 】
また、労働災害による死傷者のうち、60歳以上の労働者が占める割合は約30%で、他の年代と比較しても高い水準です。【図2】
このような状況を踏まえ、今回の改正で、高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善などの労働災害防止対策を講じることが、事業主の努力義務とされました。
改正法では、「経営者主導による体制整備」が重視されており、企業として、高年齢労働者の安全確保を経営方針として明文化し、現場の声を取り入れ、リスクを洗い出すことが求められます。その上で、段差解消や照度の確保、アシストスーツの導入といったハード面の対策に加え、身体的負荷を考慮した配置転換や、柔軟な勤務設定などのソフト面の対策が必要とされます。
企業支援としては、リスクの洗い出し、設備導入に伴う補助金の活用、動線分析や5S活動を通じた業務改善などが考えられます。また、これらに加え、定年延長・継続雇用制度と連動した人事制度の再設計、高齢期の職務内容と処遇の整理、若手との役割分担や教育訓練体系の再構築などを行うことにより、より実効性の高い支援につながると考えます。
(2) 労働者数50人未満の事業場におけるストレスチェックの義務化(2028年までに段階的に実施)
精神障害に関する労災請求件数は年々増加しており、2024年度には3,780件に達しました。そのうち労災認定された件数も1,055件と、いずれも過去最高を更新しています。
このような状況から、これまで努力義務とされてきた労働者数50人未満の事業場におけるストレスチェックが、2028年までに段階的に義務化されることとなりました。
企業にとっては事務負担が増えることとなりますが、ストレスチェックは「組織診断ツール」としての側面があり、個人結果の把握だけでなく、部署単位での集団分析の結果から、過重労働やマネジメント上の課題を可視化することができます。
企業支援として、これらの分析結果を活用し、業務配分の見直しおよび、メンタルヘルスやリーダーシップに関する管理職研修などを実施することで、職場環境の改善と組織力の強化を図り、離職率の低下や生産性向上につなげることができます。
2.女性活躍推進法に基づく公表項目の拡大
女性活躍推進法では、労働者数101人以上の企業に対し、一般事業主行動計画の策定や、女性活躍に関する情報公表などが義務付けられています(労働者数100人以下の企業は努力義務)。
2026年4月の改正では、「女性の活躍に関する情報公表」の公表項目が見直され、労働者数101人以上の企業は、「男女間賃金差異」と「女性管理職比率」の公表が必須となりました。これにより、企業の女性活躍に対する姿勢が、これまで以上に「見える化」されることとなります。
また、2025年に厚生労働省が実施した若年層への調査によると、家庭と仕事(キャリア)の優先順位付けについて、約70%が「性別は関係ない」と回答しており、男女問わず多くの若年層が「共働き・共育児」を前提としたキャリア形成を意識していることがうかがえます。【図3】
男女間賃金差異や女性管理職比率は、国内外を問わず注目度の高い指標であるため、公表される数値が低い場合、採用市場における競争力の低下や人材の流出につながるおそれがあります。
そのため、数値の背景を分析し、課題を整理した上で、男性育児休業の取得促進や、ライフイベントに左右されにくいキャリアパスの構築など、「選ばれる企業」となるための支援が必要であると考えます。
3.見直しが検討されている労働時間法制
2026年に予定されていた労働基準法の改正は見送られることとなりましたが、労働時間法制の見直しの検討は続いています。
主な内容は次のとおりです。
・時間外・休日労働の上限規制のあり方
・13日を超える連続勤務の禁止
・勤務間インターバル制度の義務化
・テレワークやフレックスタイム制などの拡充
・つながらない権利
・副業・兼業の労働時間通算ルールの見直し
これらはいずれも、長時間労働の是正や労働者の健康確保を目的としており、「働き方の質」を高めるという方向性は同じです。
企業にとっては、連続勤務の制限や勤務間インターバル制度の義務化により、工場の稼働や店舗運営などへ影響が出る可能性があります。
また、フレックスタイム制の拡充や、つながらない権利への対応により、労働時間管理や業務運用ルールの見直しが必要となることも考えられます。
このような将来の制度改正に備えるためにも、今から労働時間の適正管理や業務の標準化などを進めておくことが重要です。
おわりに
原材料価格の高騰、人手不足など、中小企業を取り巻く経営環境が厳しさを増す中、労働関係法令の改正への対応は後回しになりがちです。
しかし、今回の法改正をはじめとした制度の変更を、単なる義務としてではなく「経営改善の機会」と捉え、計画的に制度設計や業務改善などの適切な支援を行い、企業の発展に寄与することが、中小企業診断士としての役割だと考えます。

- 登録番号
丸山 理一
リムコンサルティング代表。アパレル企業、自治体職員を経て、独立。行政経験を生かし、診断士・社労士として、人事労務を中心とした実務支援と制度設計支援を行っている。



