中小企業に関わる2026年度の法令改正 カスタマーハラスメント対策の重要性 ~中小企業診断士としての支援の観点から~

1.はじめに

2025年6月11日、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定および職業生活の充実等に関する法律(いわゆる労働施策総合推進法、以下「推進法」といいます)等の一部が改正され、事業主にカスタマーハラスメント(以下「カスハラ」といいます)対策を講じることが義務付けられました。(※1)また、2025年12月10日、事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(案)(以下「指針案」といいます)が公表され、事業主が講じるべき措置等の具体的な内容が明らかにされました。( ※2、3)

法律の改正と聞くと、専ら弁護士をはじめとする法律家の専門領域と思われるかもしれませんが、実はそうではありません。カスハラ対策は、企業の価値向上や取引先との関係維持・強化などにつながるものといえますので、中小企業の支援を専門とする中小企業診断士にとっても極めて重要なものであり、その理解は必要不可欠といえます。

そこで、以下では、指針(案)の内容も踏まえて、法改正の概要を説明した上で、中小企業診断士としての支援の観点から、カスハラ対策の重要性について述べたいと思います。

2.法改正の概要

(1)カスハラとは
推進法において、カスハラとは、①職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者(顧客等)の言動であって、②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③当該労働者の就業環境を害すること、と定義されました(推進法33条1項)。

一般的に、カスハラと聞くと、店員に土下座を強要する、大声で怒鳴りつける、いちゃもんをつけて長時間拘束するなどといった一般顧客によるクレームなどをイメージすると思いますが、推進法の定義によれば、一般顧客に限らず、取引先の従業員など、事業に関係を有する者が広くカスハラの主体となり得ますので、留意が必要です。

(2)事業主が雇用管理上講ずべき措置
事業主は、カスハラを防止するため、労働者や求職者等からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければなりません(推進法33条1項)。

具体的には、①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発( ※4) 、②相談(苦情を含む)に応じ(※5)、適切に対応するために必要な体制の整備、③職場におけるカスハラに係る事後の迅速かつ適切な対応(※6)、④職場におけるカスハラへの対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置(※7)などを講じることが求められます。

また、労働者がこれらの対応に協力したこと等を理由として、当該労働者に不利益な取扱いをしてはなりません(推進法33条2項)。

さらに、事業主には、他の事業主からカスハラ防止措置に関し必要な協力を求められた場合には、これに応じるべき努力義務が定められています(推進法33条3項)。

(3)国、事業者、労働者及び顧客等の責務
国は、カスハラに関する関心と理解を深めるための広報活動、啓発活動などを行うよう努めること(推進法34条1項)、事業主は、自らこれらの問題に対する関心と理解を深め、その言動に必要な注意を払うことに加え、これらの問題に対する労働者の関心と理解を深めるとともに、労働者が言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするなどの対策に努めること(推進法34条2項・3項)、労働者は、これらの問題に対する関心と理解を深め自身の言動に必要な注意を払うとともに、事業主がカスハラ対策のために講じる措置に協力するよう努めること(推進法34条4項)、顧客等は、カスハラに対する関心と理解を深めるとともに、自身の言動がカスハラとならないよう必要な注意を払うよう努めること(推進法34条5項)が定められています。

上記(2)のとおり、事業主は自らが雇用する労働者をカスハラから守るための措置を講じる必要がありますが、それとともに、自らが雇用する労働者が他の事業主が雇用している労働者に対してカスハラを行わないよう、研修等を通じた適切な対応が求められている点に留意が必要です。

3.カスハラ対策の重要性

以上のとおり、カスハラ対策は事業主にとって法律上の義務となりました。しかしながら、単に法律上の義務だからという理由だけでカスハラ対策を行うのでは、実効性のあるカスハラ対策は実現できません。むしろ、カスハラ対策は企業や労働者にとって下記(1)~(5)のようなさまざまなメリットがあること(※8)を理解することによってはじめて、真に実効性のあるカスハラ対策が実現できると考えられます。

(1)従業員の心身の健康と定着率の向上
・ストレスの軽減とメンタルヘルス改善
・モチベーション・エンゲージメントの向上
・離職率の低下と人材流出の防止
・採用力の強化

(2)企業の生産性・業務効率の向上
・クレーム対応による業務中断の減少
・従業員のパフォーマンス向上
・トラブル対応コストの削減

(3)企業のブランドイメージ・社会的信用の向上
・企業倫理の確立と社会的責任の履行
・顧客や取引先からの信頼の獲得
・ESG(環境・社会・ガバナンス)経営への貢献

(4)法的リスクの低減
・雇用管理上の法的義務の履行
・損害賠償や訴訟リスクの回避

(5)健全な顧客関係の構築
・無理な要求に左右されない、対等で持続可能な関係性の形成
・良識ある顧客との信頼関係の強化

中小企業の支援を専門とする中小企業診断士においては、上記の点を十分に理解したうえで、支援先の中小企業に対しカスハラ対策の進捗状況について積極的に確認するとともに、上記2. (2)の事業主が講ずべき雇用管理上の措置、とりわけ事業主の方針の明確化等の伴走支援を行うことが求められているということができるでしょう。

(*1)2026年10月1日施行予定。

(*2)https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/001608225.pdf

(*3)2026年2月告示予定。(本稿執筆時点は告示されていない)なお、2025年12月11日から2026年1月9日にかけてパブリック・コメントの意見募集が行われているため、寄せられた意見を踏まえて、更なる追記・修正等が行われる可能性があります。

(*4)(1)職場におけるカスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること、(2)職場におけるカスハラの内容及びあらかじめ定めた職場におけるカスハラへの対処の内容を、管理監督者を含む労働者に周知すること(指針案・6 ~ 7ページ)。

(*5)(1)相談への対応のための窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること、(2)相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすることなど(指針案・8ページ)。

(*6)(1)事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること、(2)職場におけるカスハラが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと、(3)改めて職場におけるカスハラに関する方針を周知・啓発し、必要な場合には、職場におけるカスハラの発生の原因や背景となった商品・サービス・接客等における問題や顧客等とのコミュニケーションの不足などの改善を図る等の再発防止に向けた措置を講ずること(指針案・8 ~ 10ページ)。

(*7)事業主は、職場におけるカスハラの抑止のための措置として、労働者に対し過度な要求を繰り返すなど特に悪質と考えられるものへの対処の方針をあらかじめ定め、管理監督者を含む労働者に周知するとともに、当該方針において定めた対処を行うことができる体制を整備しなければならない(指針案・10ページ)。

(*8)『カスハラ対策で自社を守る!支援機関のための実践ガイド』(大阪府/公益社団法人大阪産業局)を参照。(本稿執筆時点では改訂中であるためインターネット上では閲覧できないが、近日中に改訂版が公開される予定であるとのことである)

前野 陽平
登録番号

前野 陽平

2015年弁護士登録、2023年中小企業診断士登録。堂島法律事務所パートナー。2つの資格を生かして、中小企業やベンチャー企業に対する伴走支援を専門としている。