中小企業に関わる2026年度の法令改正 建設業法改正

経営を取り巻く環境は大きく変化しており、建設業においても例外ではありません。そのような中で、持続可能な建設業の実現と必要な担い手の確保のため、今回は「第三次・担い手3法」と呼ばれる建設関連の3つの法律が一体的に改正されました。

担い手3法
① 公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)
② 建設業法
③ 公共工事の入札および契約の適正化の促進に関する法律(入契法)

本稿では、上記のうち建設業法改正について、中小建設業に影響の大きい内容を中心に、中小企業診断士としての対応をまとめます。

1.法改正の背景と目的

建設業界は、社会インフラを支える重要な役割を担っています。にもかかわらず、他産業と比べて賃金水準が低く、労働時間が長い傾向にあることから、特に若年労働者の確保が困難となっています。加えて、高騰している建設資材価格が工事価格に十分転嫁されず、結果として労務費が圧迫されるという問題もあります。

これらの課題を解決し、建設業の持続可能性を確保するため、政府は法制度の見直しに踏み切りました。

2.改正の基本的な狙い

改正の基本的な狙いは次の3点です。
① 労働者の処遇改善
② 資材高騰による労務費へのしわ寄せ防止
③ 働き方改革と生産性の向上

3.改正法の主要ポイント

3-1 労働者の処遇改善
適正な賃金の支給が可能となる金額で見積り・契約を行い、労働者に適正な賃金を支払う流れを構築するため、大きく次の3点が改正されました。

① 処遇改善の努力義務化
建設業者に対し、労働者の処遇確保が努力義務とされました。ここでいう「処遇」とは、主に適正な賃金を念頭に置くものです。建設業者は、技能その他の能力についての公正な評価に基づき、適正な賃金を支払うよう努める必要があります。

② 著しく低い労務費等による見積りや見積り依頼の禁止
見積り段階では、次の行為が禁止されました。
・著しく低い労務費等による見積りの提出
・ 注文者(建築主、下請負人へ発注する建設業者等)による著しく低い労務費等での見積り変更依頼
・原価を著しく下回る金額での契約締結
発注者・受注者ともに対象となっており、著しく低い労務費等で見積りを依頼した注文者に対しては勧告・公表が、違反した建設業者に対しては指導・監督が行われます。
基準となる労務費については、中央建設業審議会が標準労務費を作成します。

③ 不当に低い請負代金の禁止
建設業者は、原則として原価に満たない金額で請負契約を締結することが禁止されました。労務費のみを適正な金額とし、他の経費を過度に低く設定して金額を調整することも認められません。

3-2 資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止
資材高騰に対する価格転嫁が進まない場合、利益確保のために労務費削減につながりかねません。また、値上がりのスピードが速く、工期の長い工事では、工事中に資材価格が上昇する可能性もあります。

そこで、契約前に資材高騰等の「おそれ情報」を注文者に通知する義務が定められました。契約前に通知を行った受注者は、注文者に請負代金等の変更について協議を求めることができ、注文者には誠実に協議に応じる努力義務(※)が課されました。
(※公共発注者は協議に応じる義務)

3-3 働き方改革と生産性の向上
① 著しく短い工期の禁止(働き方改革)
従来は注文者のみが禁止対象でしたが、改正により受注側の建設業者も対象となりました。通常必要と認められる期間に比べて著しく短い工期での契約はできません。違反した建設業者には指導・監督が行われます。

② 工期変更協議の円滑化(働き方改革)
前述の資材高騰のおそれ情報と同様に、受注者は契約前に資材の入手困難等の「おそれ情報」を注文者に通知する義務があります。これにより、資材が入手困難となった場合、工期変更について協議を行うことができます。注文者には誠実に協議に応じる努力義務があります。

③ 現場技術者の専任義務の合理化(生産性向上)
一定の条件を満たす場合、現場技術者の兼任が可能となりました。ただし、兼任可能な現場数は2件以内とするなどの制約があります。

④ ICT活用による現場管理の効率化(生産性向上)
建設業界では、現場管理の効率化による生産性向上が求めら
れています。改正により、特定建設業者および公共工事の受注者
には、ICTを活用した現場管理が努力義務とされました。また、特
定建設業者には下請負人への指導も努力義務とされています。

4.中小企業診断士として可能な支援

今回の法改正により、これまで以上に必要となると思われる支援について整理します。
① 情報提供
法改正に関する情報を十分に収集できていない中小事業者も少なくありません。改正自体は知っていても、多忙のため法の中身まで確認できていない場合もあります。まずは、建設業法が改正され、さまざまな義務や禁止事項が新設されたことを伝えることが重要です。

例えば、価格交渉の場面において、不当に安い金額での契約が禁止されていることを知っているだけでも、心理的な後押しになります。コンプライアンス重視の風潮の中では、交渉材料の1つにもなり得ます。

② 原価管理の支援
過度な低価格での見積りや契約が禁止されたことにより、自社の材料費や労務費を正確に把握する必要性が高まりました。より詳細な原価管理が求められる場合には、社内データの収集・分析支援が考えられます。

例えば、自社従業員の労務費をあらかじめ設定した単価で画一的に計算しているケースでは、決算書上の労務費と工事別データを照合し、単価の妥当性について専門家として助言することが有効です。また、価格交渉時に活用できる客観的資料の整理方法について支援することも、交渉の円滑化につながります。

③ 戦略策定の支援
「赤字だが、この金額でないと受注できない」との声を聞くことがまれにあります。しかし、大幅な値引きによる受注は、違法となる可能性があります。お客さまである発注者側も勧告等を受けるリスクがあります。

これまで低価格で受注を確保してきた事業者にとっては、戦略転換が必要となる場合があります。価格以外の強みの明確化など、法改正後の業界環境に対応した戦略見直し支援が求められます。

④ 工程管理の支援
適正な労働時間の確保が求められる中、手戻り工事などの無駄を削減し、長時間労働とならない仕組みづくりが必要です。また、現場単位で業務が行われるため、本社から実態が把握しづらい場合もあります。労務管理体制の整備支援も必要となってきます。

⑤ ICTの導入支援
現時点では全面的な義務化ではありませんが、一部の建設業者にICT活用の努力義務が課されました。この流れは今後も進むと考えられます。

発注者側の建設会社でのICT化に伴い、受注側も対応を迫られる可能性があります。また、自主的に導入して生産性向上を図る事業者も増えるでしょう。IT分野に強い診断士の支援ニーズは高まると考えられます。

おわりに

建設業支援においては、原価管理、見積り作成、現場管理、価格交渉などの分野で助言・支援することにより、経営をさらに向上させる余地が多く残されています。今回の法改正を、経営体質向上の契機としていただければ幸いです。

岡﨑 永実子
登録番号

岡﨑 永実子

2008年登録。大手建設会社でエンジニアとして勤務した後、2012年に独立。建設業、製造業の経営改善や食品衛生管理の支援を得意としている。建設業研究会代表。