中小企業における防災・BCP対策 「その時、訓練していたからできた!」

2023年9月に東日本大震 災における津波被災企業を訪 問して、当時の様子をお聞き した。この時某企業の責任者 から「訓練していたからでき た!」との発言を聞き、「訓練」 の重要性を痛感した。この時 の経験から支援の場では事業 継続計画(BCP)策定に留まら ず、演習・訓練にも注力する ようになった。 今回はBCP策定から訓練まで一気に取り組んだ事例を2件紹介 する。

事例1 高齢者を守る!市総合防災訓練に参加した社会福祉法人


厚生労働省は、2021年度から介護事業所にBCP策定 を義務付けした。この方針に従い、2024年3月までに各 事業所は策定、研修、訓練を実施することとなった。


滋賀県にある当社会福祉法人もその1つである。広大 な敷地に入所系、通所系、訪問系全事業所を備え、ス タッフ200名が高齢者200名をお世話している。厚生労働省の方 針では、各事業所単位での策定を求めていることから、本部を含 め8事業所について、自然災害対策、感染症対策を同時に策定 することとなり、先輩の先生と当職が支援に入った。


2022年9月から毎月1回2時間を掛け、各事業所代表 16名で自然災害対策を4回、感染症対策を3回で策定し、 3月中旬から5月中旬まで事業所単位でBCPの啓発と研修・訓練 を実施し、その報告会を5月下旬に実施した。 支援では、段階的に策定された8部門の計画を確認して必要な アドバイスを行った。計画内容を踏まえ災害で想定される「けが人 対応」「深夜の発災による近隣対応」「感染者対応」など多様な事 態の質問を投げかけ、事業所の枠を超え法人としての方針の統一 を目指した。同時に参加者からも「想定しない事態に対する判断 基準は?」などの質問が出され、全員で協議を重ねた。 また支援の初期に当市で毎年総合防災訓練を実施しているので、 これに参加されることを勧めたところ、市に相談して2023年4月か ら市の防災訓練準備会に参加された。
5月の報告会で、ある責任者から「2024年5月5日に発生した石 川県能登地方の地震で震度3の揺れがあったとき、とっさに利用 者、スタッフの安否および施設の被害状況を確認するようスタッフ に指示し、被害なしとの連絡を受けて本部および理事長に伝えた」 との報告があった。当職が常々語る「我が事意識で取り組む」こと の実践である。揺れを感じた瞬間、訓練として受け止め、BCPの 手順を実施されたことは素晴らしいことである。全員で拍手してその行動を称えた。


総合防災訓練での法人の役割は、「福祉避難所」を開 設し、「要配慮者」を保護することである。 9月の訓練当日朝、理事長と施設責任者と共に福祉車両に同乗 し、訓練場所に赴き、所定時間に「要配慮者」を福祉車両に移乗 させ施設に戻った。到着後直ちに健康チェックを行い、当人を用 意したベッドに寝かせるまでの手順を円滑に実施した。ベッドの配 置についても前日の夜遅くまで協議しながら準備したとのことであ る。「福祉避難所」の指定を受けた法人の責務を果たしたのである。 BCPでは、実施すると定めたことを確実に実行し、訓練により組 織全体の経験を蓄積し、問題点を見つけて計画を見直すことが重 要である。 その後も法人は、毎年避難訓練などを実施して、レベルアップ を図っている。

事例2 観光客を守る! 地域を守る!兵庫県豊岡市出石町観光危機管理計画


2024年1月1日夕刻、能登半島地震が発生した。この とき、兵庫県最北の豊岡市沿岸部に「津波警報」が出さ れた。幸い被害はなかったが、この事態に同市の観光地出石町 の関係者は、危機管理体制の必要性を強く感じた。 出石町は、江戸時代から但馬国の城下町として栄え、現在で も木造建造物が静かなたたずまいを残しており、国の「重要伝統 的建造物保存地区」に選定されている。また出石焼の白磁小皿に 盛られた手打ちそばは「出石皿そば」として有名であり、全国から 年間50万人以上の観光客が訪れている。


出石町の地域振興を図るため、㈱出石まちづくり公社、 NPO法人但馬國出石観光協会、豊岡市商工会出石支 部、豊岡市出石振興局、出石皿そば協同組合を構成員とする「ま ちづくり団体代表者会議」が、定期的に会議を開催している。こ の会議が母体となり観光地BCPを策定した。策定では、国土交通省観光庁が推奨する「観光危機管理計画」 様式を採用して、減災対策、初動対応、復興の内容となった。


準備段階では、兵庫県、豊岡市、出石伝統的建造物 群保存地区防災計画などを把握して、「観光」に関する項 目を抽出することで「初動対応」を中心に取り組むことにした。発 災と同時に観光客の安全を確保し一時避難所に移動してもらい、 道路状況などの観光客が求める情報を迅速に提供することで帰宅 または次の旅行先に移動してもらうことに重点を置いた。 策定にあたっては、本会議に並行して各団体の実務責任者会 議を開催して役割分担を決めて取り組み、本会議で幹部の承認を 得ながら進めた。当職は、本会議には現地に赴き参加、実務責 任者会議にはWEBで参加し若いメンバーの熱心な討議に参加し た。途中質問があった際には、方向性を述べることにとどめ、関 係者の意思を尊重した。


2025年2月に、復興を含めた(素案)ができた。迅速な チームワークである。3月に主催者は、地域の関係者へ の説明会を開催し、その後プレスリリースを発表した。その勢い で内部関係者限定ではあるが、「課題抽出」「通信状況確認」を目 的とした訓練を5月23日夕刻に実施することにした。この「5月23 日」は、1925年5月23日に「北但馬地震」が発生し、428名が亡 くなった日でもある。過去の災害の教訓を生かす意味から、震災 から100年目のこの日が決まった。 当日関係者約30名が、皿そば店での観光客役とスタッフ、一 時避難所、危機管理本部など役割を決め待機した。発災の合図 と同時に内部連絡用の「LINEグループ」および観光客への情報 提供として自前で構築した「ポータルサイト(HP)」を使い、情報の 発・受信、観光客役の移動などを実施した。訓練後の反省会で 「通信不調時の対応」「けが人対応」など多くの課題が提起された。 本計画は、危機管理として緒に就いた段階である。「観光客を 守る。地域を守る」の想いを1つに課題の解決に向けて、民間団 体および行政が一体となって内容の見直し作業中である。

支援を振り返り

両事例は大組織ではあるが、「命を守る」の1点に集中して取り 組まれた。計画策定直後に訓練、振り返り、見直しまでPDCAを 回し、組織としての行動変容を起こされた。関係者の真剣な姿勢 に敬意を表したい。 出石町の計画で「復興」までまとめられたことから、「復興」支援 の必要性を痛感した。支援者として、まだまだ道半ばである。

福島 猛
登録番号

福島 猛

阪神淡路大震災の被災経験からBCPに取り組む。2001年登録後、建設業、医療福祉業を支援すると同時に、業種横断でBCPを支援中である。