中小企業における防災・BCP対策 中小企業が事業継続計画より取り組みやすい事業継続力強化計画について

1. 事業継続計画と事業継続力強化計画の違い

(1) 事業継続計画(BCP)とは
事業継続力強化計画(ジギョケイ)とは事業継続計画(BCP)の特集ではありますが、まずBCPのおさらいをした上で、事業継続力強化計画について説明します。なお、事業継続力強化計画は略称である「ジギョケイ」と呼びます。
BCP(事業継続計画)は、企業が風水害や地震などの自然災害、感染症、サイバー攻撃などの緊急事態に備えて事業を継続させるための計画です。BCPにより、従業員の安全確保、被害の最小化、事業の早期回復を図ります。

一方、ジギョケイは、中小企業が自社の災害リスクなどを認識し、BCPの入門編として取り組むために必要な項目を盛り込み、現在および将来的に行う災害対策などを記載して、経済産業大臣の認定を受ける制度です。認定を受けた中小企業は、防災・減災設備に対する税制措置、低利融資、補助金の加点措置などを受けることができます。

ジギョケイが2019年度に始まった理由は、その前年から地震・豪雨・台風などの自然災害が全国各地で頻発して、被災した多くの中小企業が倒産・廃業に追い込まれたためです。
ジギョケイは、BCPの入門編と言われますが、理由は以下の通りです。
① 内容がシンプルに設計されている
② 対象が主に中小企業である
③ フォーマットが整っており、作成しやすい
④ 認定されると、さまざまなメリットがある

図1は、BCPの概念図です。BCPは災害復旧完了目標までを行いますが、ジギョケイは、初期対応を中心に行い、最低限の防災・減災・継続対応ができるようになります。

(2)ジギョケイの認定件数
ジギョケイは、2019年度の途中に制度が開始してから2025年5月までで累計81,971件認定されています。また、複数の企業が連携する連携事業継続力強化計画は、累計1,542件認定されています。
大阪府内のジギョケイ累計認定件数は、6,457件で、東京都に次ぎ2位になっています。

2. ジギョケイ策定・認定のメリット

(1)公的に得られるメリット
BCPを策定することで、災害発生時に事業の早期復旧が見込められたり、取引先からの信頼が向上したりと企業にとってメリットが生じます。さらに、国はジギョケイを中小企業に普及させ災害に強い企業を増やすために、さまざまなメリットを用意しています。
①日本政策金融公庫による低利融資
設備投資に必要な資金について低利融資を受けることができる。
②信用保証枠の追加
信用保証協会で、普通保険などとは別枠で追加保証や保証枠の拡大が受けられる。
③防災・減災設備への税制優遇
一定の設備などについて取得価額の16%の特別償却が適用できる。
④ものづくり補助金など、助成金の優遇措置
ものづくり補助金などの一部補助金において審査の際に加点を受けられる。

(2)経営面で重要なメリット
このようなメリットがありますが、BCPやジギョケイは、作成に手間やお金が掛かって、「災害が起こらなければくたびれもうけ」と感
じる経営者も少なからずいます。しかし、BCPやジギョケイには、経営面での重要なメリットがあります。
それは、自社の業務の重要さの順位付けができ、より適切な戦略が構築できる点です。
BCPもジギョケイも、まず事業活動の振り返りを行います。ひとたび自然災害などが発生すると、従業員、取引先、地域に大きな影響が出ます。
例えば、売上が2番目に大きい製品が、ある大手企業の主力製品に必要不可欠な部材で、代替品もないとなると、売上が1番大きい製品よりも、災害に負けない原料調達・製造・供給体制を見直さなければならないかもしれません。もし今まで売上最大の製品中心の経営戦略や設備投資をしていたら、非常事態発生で企業が大手企業への供給責任を果たせず、苦境に陥るでしょう。
BCPやジギョケイに取り組むことで、企業にとって何が本当に重要で、何を守り、どんな対策を打つべきか、優先順位を付けることができます。それにより、取引先からの信用度が高まります。

3. ジギョケイ作成の流れ

(1)5つの検討ステップ
ジギョケイを策定し、申請するには次の5つの検討ステップがあります。
Step1 事業継続力強化の目的の検討
事業継続力の強化を図る上で、目的を考えることが重要です。
自然災害などが起こった時に経済社会に与える影響の軽減に資する観点を踏まえて検討します。
Step2 災害等のリスクの確認・認識
ハザードマップなどを活用して災害などのリスクを確認・認識します。被害想定を基に、ヒト・モノ・カネ・情報の切り口から自社への影響を考えます。
Step3 初動対応の検討
災害などの発生直後の初動対応を、①人命の安全確保、②非常時の緊急時体制の構築、③被害状況の把握・被害情報の共有、を検討します。
Step4 ヒト・モノ・カネ・情報への対応
Step2で検討したヒト・モノ・カネ・情報への影響を踏まえ、災害などに備え事前対策を検討します。
Step5 平時の推進体制
事業継続力の強化は計画だけでなく平時の訓練が大切です。
ジギョケイでいろいろと対策を立てても、いざ災害などが発生すると、必ず想定外のことが発生します。平時から繰り返し訓練をすることで応用力が付き、想定外の事象が発生しても、適切な対応を取る確率が高まります。
(2)診断士のジギョケイ策定支援
中小企業診断士が中小企業のジギョケイ策定の支援をするポイントを幾つか述べます。
① 事業競争力強化の目的を決める際、経営者の考えや意見、会社を取り巻く状況などから、重要なポイントを押さえ目的に取り入れるよう経営者をリードしてください。
② 災害などのリスク確認では、ハザードマップやJ-SHIS 地震ハザードステーションの検索・分析方法を経営者が知らない場合、指導してください。
③ Step3までの検討から脆弱な項目がリストアップできたら、具体的な取り組み、必要な設備導入と必要な資金額と調達方法など、経営者と共に考え助言してください。
④ ジギョケイの申請・届け出は、電子申請システムを使います。
慣れていない経営者には、使い方を指導してください。

4. 事業継続力強化・BCP研究会の取り組み

私が所属する事業継続力強化・BCP研究会は、2019年に発足。実際に中小企業へのBCP構築支援をしている方、BCPに関心を持っている方など、20名が参加しています。分科会ベースで、中小企業のジギョケイ策定の手伝いをすることもあります。

5. 付録

私が所属する企業のホームページに、BCPに関するコラムを4つ書いています。よろしければ参考になさってください。

コラム

松谷 和夫
登録番号

松谷 和夫

2019年登録。(株)クラレで営業と管理に従事後、ISOのコンサルティング会社で営業を担当。BCP研、ISO研プラスなどに所属。趣味は、ライフワークの切手収集と神社・古墳巡り。