中小企業で輝く企業内診断士 大企業からのオファーを断り、中小企業で企業内診断士として働く意義と理由
1.皆さまへお伝えしたいこと
私は現在、兵庫県姫路市にあるアークハリマ株式会社(以降 アークハリマ)に勤めている企業内診断士です。当社は、ステンレ スを中心とした金属材料販売や他社では真似できない高い溶接・ 研磨技術を使った機器装置製造を行う中小企業です。世界で高 いシェアを持つ半導体製造企業の、製造装置の基幹部品を当社 が100%担っております。また海水を淡水化する設備、水素などク リーンエネルギー分野に関わっており、社会に貢献している企業で す。私はその中で、経営管理部課長としての役割を担い、経営 戦略の構築、人材採用、教育システム構築、大型設備投資(設 備機器、工場建設)など、幅広い業務に携わっています。今回、 私が中小企業診断士としてどのような道を歩み、なぜ中小企業で 働くことを選んだのか、そして日々の業務でどのように資格や経験 を生かしているのかについてお伝えいたします。
2.自分の価値観に合ったキャリア選択
私のキャリアの大きな転換点の1つに、2020年に前職の食品会 社から現在のアークハリマへの転職があります。2019年のことで すが、エージェント経由で誰もが知る大手食品会社2社からオファー をいただきました。また同時に、現在の勤務先であるアークハリマ からもお声が掛かりました。 もしあなたが、誰もが知る大手企業と、まだ発展途上の中小企 業から同時にオファーを受けたら、どちらを選びますか?多くの方が、 安定した大手企業を選ばれるかもしれません。しかし、私は大手か らのオファーを断りました。理由として、大企業では自分の知識や 経験を十分に生かせず、組織の歯車の一部になってしまうように感 じたからです。 一方、アークハリマの社長は「会社を大きくしたい」という強い思 いを抱いており、前職とは異なり規模拡大を目指す環境に、新し い経験ができる可能性を感じました。私にとって一番大切にした かったのは、「自分が成長できるかどうか」でした。自身の専門性や リソースを生かし、貢献できる余地が大きい、そのことが中小企業 を選んだ理由です。
3.中小企業診断士が中小企業で働く意義
私が考える企業内診断士は、「課題解決の専門家」です。中小 企業で働くことの意義は、会社内の多様な課題に対し、自身の専 門知識はもちろんのこと、中小企業診断士仲間から得られる幅広 い知見や人脈を活用して多角的に対応できる点にあります。 外部のコンサルタントは一時的な支援となりがちですが、企業内 診断士は組織の内部に深く入り込み、課題を継続的に、かつ長 期的な視点で解決に取り組むことができます。また、中小企業で は経営戦略、設備投資、人事、教育といった幅広い業務に携わ る機会が多く、これらの経験は社外で中小企業を支援する上でも 非常に貴重な経験となります。自身の成長を追求しながら、会社 の課題解決に貢献できることに大きな価値を見出しており、自身の リソースを最大限に生かせる中小企業こそが、企業内診断士に とって大いに活躍できる場だと感じています。
4.現在のキャリアの原点
私が中小企業診断士を目指すきっかけとなったのは、前職の食 品会社で経理責任者を務めていた2008年頃に経験した、猛烈な 危機感でした。当時、上司や同僚が相次いで退職し、経験も知 識も未熟ながら部署のトップとして銀行との折衝に当たることになり ました。銀行の担当者が求めていることを理解できず、「このままで は私が会社を潰しかねない」という強い不安に襲われました。 同時に、会社が億単位の借入をする際に、社長が連帯保証人 の欄に印鑑を押す姿を目の当たりにし、「社長は命がけで会社のあら ゆる意思決定をしているのだ」と肌で感じました。この経験が、私の 立場を傍観者から主体的なものへと変化させ、会社全体の流れを 理解するための経営知識を体系的に学ぶ必要性を強く感じました。 これが、中小企業診断士資格の取得へと向かう直接的な原点です。 資格取得後は、大阪府中小企業診断協会の青年部運営委員と して積極的に活動し、人脈を広げました。また、社内では新商品 開発プロジェクトをはじめ、皆がやりたがらない6つのさまざまな改 革プロジェクトに自ら手を挙げ、リーダーやサブリーダーを務めまし た。これらの社内外での活動で積んだ経験が、現在のキャリアに 生きています。
5.企業内診断士としての実践
現在勤めているアークハリマでは、自身の専門性と中小企業診 断士のリソースを生かしたさまざまな実践に取り組んでいます。 1つ目は、SDGs導入推進プロジェクトです。売上安定と経営基盤強化のために、知名度向上策としてSDGs導入プロジェクトを主 導しました。外部の研究会(大阪府中小企業診断協会サステナブ ル経営/SDGs研究会)の支援も得ながら、自社がどのように社会 に役立っているのかを把握し、またその導入推進活動が、サンテ レビの番組で紹介されるなど、会社の知名度向上と従業員のモチ ベーション向上につながっています。 2つ目は、新たな工場・事務所建設や設備投資です。このプロ ジェクトの担当として、ものづくり補助金や事業再構築補助金といっ た補助金活用を計画・提案し、ものづくり補助金を活用した新装 置の導入により、作業時間を大幅に短縮し生産性を向上させるこ とができました。また、工場・事務所のレイアウトには担当部署を 巻き込み、生産性の高い動線を設計しています。これらの大型プ ロジェクト推進には、過去の補助金申請や事業計画策定の経験が 生きています。 3つ目は、人材確保と育成です。若手技術者獲得のため姫路 商工会議所の企画で、姫路工業高校の校外授業を受け入れまし た。同企画に参加している大手企業との差別化を図るため、先に 述べた知見も生かした「考えさせる授業」を実施した結果、上記高 校の先生からも高い評価を得て、10年ぶりの採用に成功しています。 現在は、社員満足度向上に向けた専門職の人事制度構築にも取り組んでおり、ここでも診断士活動の中でつながった、人事制 度構築に知見を持つ外部専門家の協力を積極的に得ています。 このように、社内課題の解決に際して、自身の診断士の専門知 識や経験に加え、診断士活動で築いた外部ネットワークを積極的 に活用しています。
6.最後に
私のキャリアは、自身の「危機感」を原点とした中小企業診断士 資格の取得から始まり、自分が成長し、貢献できる場所に価値を 見出すという、自身の価値観に基づいて形成されてきました。 社内での実践を通じて診断士としての経験を深める一方で、診 断士活動で築いた外部ネットワークから得られる多様な知見を社内 課題の解決に活用しています。そして、社内での経験は、社外で の中小企業支援活動においても生かされています。私は、企業内 診断士が組織の内部に深く関わり、長期的な視点で課題解決に取 り組むことの重要性を日々実感しています。自身の成長を楽しみな がら、積極的に挑戦を続ける私の活動が、所属企業の成長だけ でなく、地域社会への貢献にも微力ながらつながっていけばと考え ています。これからも、中小企業診断士として、中小企業の現場 で価値を創造し続けていきたいと考えています。
- 登録番号
仲谷 陽介
2014年中小企業診断士登録。金属系中小企業に勤務し、経営戦略、人材採用、教育システム構築、大型設備投資など幅広い分野を担う。趣味はトレイルランニング。